馬鹿は風邪を引かない、という論説を俺はいつまでも否定し続ける。

秋が来た。

ようやく、秋が来た。今年の夏は本当に、いい加減にしてほしいと何度も願った。朝起きてエアコンが効いていないことに気付かされた瞬間の絶望と、窓を開けて外の空気を吸い込んだ瞬間の不快感と言ったらなかった。朝の風を感じて受ける不快さというものは、労働の義務を日本国憲法から消すほどの厭世を抱かせるレベルの悪である。

この夏ほど死にたいと思うことはなかったと思う。俺は人身事故でこの世を去る人間に対しては憐れみしか感じない。俺の真横で「ふざけんなよ」と言う人間が居れば、多分俺はその彼と友だちでいることを続けるのは難しいと感じるだろう。自死の理由くらいは察してやりたいし、酩酊してホームから線路に落ちた場合も、明日は我が身、としか感じない。

俺は、今年の夏に気持ちを折られ、精神的にかなり殺られた。6月からしっかりと暑かったせいで、7月が可なりの長さを感じたものである。北海道に帰ったときには本当に救われたと思ったものだよ。めっちゃ雨降り続けていたけど。そんなことよりも気温の落ち着きが、俺の気持ちも落ち着かせていた。

その時期がやっときたのだ。ここ、東京にも。

求めていた時期がやっと、眼前に現れた喜びを胸いっぱいに吸い込み、朝の冷たい空気が自分のたるんだ気持ちをしっかりと引き締めてくれる。カラッとした空気が喉を通るたびに、俺は幸せな気持ちで朝の音楽をチョイスすることができる。

 

そう。思っていた。

 

はずだった。

 

俺は風邪を引いたのである。

 

 

 

季節の変わり目は風邪を引きやすい、というのはもはや人間の格言として覚えておくべきもので、去る土曜まで短パンで過ごせたのにもかかわらず、今の俺はジャケットなんか羽織っちゃうくらいの寒さを感じざるを得ない。

そんな気温の中、月曜から猛烈な筋肉の強張りを感じ、俺はただ単に疲れ、そして肩こりだと吐き捨てて会社に行きつつも、夕方ころから喉の痛みを感じ始めた。

ようやく頭痛が収まってきた。俺は書くしかない。

月曜夜も不安を抱えながら家でパスタを作り、ネギをたくさん入れたパスタを食べつつ肩ロースのチャーシューを仕込んだ。起きた火曜朝はまぁ体調は大丈夫かな、とか思いつつ喉の痛みはしっかりと感じていた。ビタミンが足りていないことはわかったので、果物を摂取して家を出た。

仕事を始めればそんなこと言っていられないわけだが、昼寝をして、昼からの仕事を多少片付けて外出をキメ、帰社直前で腹具合がおかしくなったタイミングで完全に気づいた。この体調不良…風邪だ。

寒さのせいではない。己の不摂生と精神のイカれ具合がなすものである。

本日である水曜。俺は朝起きてトイレに籠城。どうにかなるだろうと思って一旦布団に戻ったが、その後は起きることもままならずに欠勤の報告。会社からは「有給にしますか欠勤にしますか」なんて連絡が来ていてかなり萎えた。そういうの、あとからにしてくれないかな、というのは働いている側の意見だ。しかも死んでるときに仕事振るなよ…そりゃミスも起こすよ。

と、今になっては書けることだ。

心底疲れた。休みの日なのに心身ともに疲れてタイピングを始めてしまう苦しみは何故、起こるのだろう。

心底疲れた。どうも魂の居所は家にあるらしい。家にいるときすら気持ちが折られていくのは溜まったもんじゃない。

 

 

しかしながら悪いのは己の行いだ。

俺は馬鹿は風邪を引かないという理論をいつも思い出す。

この理論には2つの視点がある。

 

 

「馬鹿は本当に風邪を引かない」

というのと

「馬鹿は風邪を引いても気づかない」

 

馬鹿であれば本当に風邪を引く余地もなく遊び続けることのできる体力馬鹿、という揶揄が前者。

 

馬鹿は風邪を引いてもその異変に気づかず、なんかおかしいなー、あれ?風邪はやってます?大変ですね、とか言って素知らぬ顔をしているのが後者だ。

 

 

あなたはどっち?

 

 

 

私?

 

私ですか??

 

 

私は

「体調管理ができないから馬鹿」

 

この3つ目の視点が当てはまる。

 

馬鹿は風邪を引かない、という前提を根底から覆す。論理もへったくれもない。

ちなみに看病してくれる人もいないロンリーな男だ。

 

体調管理ができない。これこそ本物の馬鹿であり、馬鹿は風邪を引かないなどという考え方は単純に「馬鹿」=「元気な人」を指す状況であり、

「馬鹿」=「本物のうつけ者」という前提を持てば馬鹿は風邪を引きやすいという結論を導き出すことができるのである。論理学については己のもっとも不得意な分野だったので割愛しておく。

 

そんなわけで体調についても戻ってきた、と、今の段階では思っている。

明日になってみればただただ会社に行きたくない病も発病するかもしれないが、俺がどうにかしなければ回らない仕事もある。そういうところの責任感、いい加減捨てて過ごしたいなんて思う気持ちが相変わらず心のうちにある。

 

少なくとも、朝窓を開けて暑苦しい空気さえ感じなければいいのだ。それだけで心は救われる。

 

もうすぐ寒い季節が来ると思うと…それもまた辛いものだ。

 

 

ちなみに風邪をひきやすいから馬鹿、という論理は導き出せないので誤解せぬように。

 

寒いのも暑いのも嫌だし、そもそも暑いのも寒いのも関係ねえじゃん。とか言いながら俺は常夏のマリネラ王国にでも住むしかないのではないかと思った。年がら年中ポカポカ陽気で頭の中も空っぽにしつつクックロビン音頭を踊って生きていたいと思う。完。